ハードクライテリアソフトクライテリアとは?

改訂:2008.11.30

  通常のがん治療効果は、主に固形がん化学療法向けに設定されている直接効果判定基準(WHOの基準)で評価されるのが一般的です。そこでは、抗がん剤によってがん病変がどのくらい変化したかが、
  完全奏効(CR): 全病変が4週間以上完全に消失
  部分奏効(PR): 推定50%以上の腫瘍の縮小が4週間以上持続
  安定(SD、不変 NC ともいう): 4週間以上変化ないか、PR以下・PD未達
  進行(PD): 新病変の出現、25%以上の病変の増大
で記述され、全体の症例数中で占めるCR+PR症例の割合が奏効率(Response Rate、%)として表され、世界中で認められている抗がん剤の評価基準になっています。

 また、最近はWHO評価ではなく、より簡便なRECIST法による評価が使用されるようになりました。日本でもガイドラインがでています。最近はSDも有効な範囲と提唱されつつあり、全体の症例数中で占める CR+PR+SD症例の割合が疾患制御率(Disease Control Rate、%) として表されることが多くなっています。

 患者様から「○○がんには何%効くのか」という質問がよくありますが、それは、上記の奏効率または疾患制御率を意識してのことと思います。

 しかし、抗がん剤によって、「確かにがんは小さくなったけれども、4週間を大きく越える継続的な効果はなく、結局患者は死亡した、そのため患者全体の生存率で評価すると延命効果は認められない」、というのが従来からある抗がん剤ではよく見られた現象でした(もちろん白血病や精巣癌のようなすばらしい成功例もありますが)。

 抗がん剤の副作用で苦しめられ、効いたと思ったのもつかの間で、実際には長生きできないというのでは意味がありません。そこで各国は「全生存率(OS)で評価しても確かに延命効果がある」という証明がなければ新規抗がん剤としては認めない、という方針に転換しています。

 以上のように奏効率、OSで評価した延命効果は、それぞれ意味が異なるとはいえ、しっかりした科学的基盤を持つ評価基準であるため、“ハードクライテリア”として分類できます。

 一方、がん免疫療法を施行すると、目を見張るようなCR・PR症例が出ることは多くはありません。ところが、癌の大きさは不変(SD)でも、それが4週間どころか半年以上も続いているという症例が無視できない程の数で発生します。「結局患者は長生きできた」という学会報告も続出しています。そのため、長期不変例は有効症例とすべきだと提唱されています

 また、がん免疫療法を行うと、寝たり起きたりで家にこもりきりだった病人が非常に元気になり、ゴルフに出かけた、海外旅行に行ったという、傍で見ている家族がびっくりするほどの外面的な改善効果、すなわち、QOL (生活の質)で見た場合の劇的改善例が多数認められます。

 しかしQOLは正確な数値化測定が困難で、評価者の主観で大きく変わるという欠点があります。また、学術論文上でもCR・PRに代わる評価法として「長期SD」(自家がんワクチン接種後1年以上の無再発を含む)や「QOL」の他に、「癌の一部が縮小した」、「臨床症状が改善した」、「医師の予測よりも長生きした」、「腫瘍マーカーが低下した」等の評価基準が時々使われています。これらを集めたものソフトクライテリアで、がんに対する何らかの改善効果表します。全体の症例数中で占める改善効果が認められた症例の割合が改善率です。

 新しいがん免疫療法を開発する場合、その開発過程で必ず行われる動物実験では、CR、PR、OS等は簡単に計測できますが、QOLを客観的に測定すること等は不可能です。また、動物実験でCRやPRの効果が出たとしても、実際にヒトに適用した場合に、「効果が全然ない、毒性だけが現れた」という結果となった治療法は非常に多いのです。

 ソフトクライテリアは、厳密な学術的批判に耐えうる評価基準ではありませんが、実はQOLのように、“ヒトでなければわからない効果”を推測するにはとても有用なのです。特に、まだ少数例の臨床経験しかない状況では、がんに対する何らかの改善効果を集めてみると新しいがん免疫療法が望ましいものであるか否かという全体の傾向がつかめます。

 例えていえば、ソフトクライテリアは雲が流れていく方向や早さを見て明日の天気を予測するようなものです。人工衛星やスーパーコンピューターまで動員する大掛かりで高額な費用がかかる天気予報 (“正規の臨床試験=治験”はこれに相当します) に比べれば正確さに劣るとはいえ、簡便におおまかな天気の行方が予測できます。

 ヒトは実験動物のように扱うわけにはいきませんから、ごくわずかの症例を対象に、慎重に新しい方法を適用し、安全性を確かめつつ、効果の有無を丁寧に調べていくのが常道となっています。このような場合に、ソフトクライテリアで見た場合でさえも効果がないようでは話にならないのは自明でしょう。

 当社では、このような観点から、ハードクライテリアによる厳密な評価がなされた自家がんワクチン療法の臨床成績とともに、ソフトクライテリアによる治療成績表も公表していくことにしております。